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2024年11月5日
いくつかの印象
戦争、というとき私が咄嗟に思い浮かべるのは『プライベート・ライアン』の冒頭の、ノルマンディー上陸作戦を描いた、大人数の身体がぽんぽん破壊されていく場面のことだが、しかしそれは伊藤計劃『虐殺器官』の主人公が、動画サイトのサンプルが冒頭十五分間だけ観られるという理由で軍の同僚た...
2024年9月9日
パリで聴くワーグナー
第一次世界大戦が勃発した直後、ドイツ軍による空襲の様子を描写しながら、戦闘機の編隊の機能美やけたたましいサイレンの響きを、まるでワーグナーのオペラ『ワルキューレ』のひと幕のようだ、と讃えたのは、『失われた時を求めて』の語り手の友人であるロベール・ド・サン=ルーだった。ワーグ...
2024年7月13日
父たちの死
順当にいけば親は子よりも早く死ぬ。親の手で育てられた子にとって、その死は大きな出来事だ。だから、主人公の生涯を追った小説では、両親(や祖父母)の死は重要なイベントとして描かれる。 私の両親は、高齢者、と呼ばれる年齢に数年前に達した。二月には父が肺炎をこじらせて入院した。人...
2024年5月12日
兄の動揺、母の嘆息
町屋良平は、〈身体を記す〉というテーマで書かれたエッセイ「灰色の愛」(『文學界』二〇二四年二月号)のなかで、父親の性欲について母親と話した、というエピソードに続けて、こう書いている。 ちなみにこの話を含めて母親には「私のことは小説(など)に書かないでくれ」と懇願されているが...
2024年4月4日
三つの性と死
ジャック 家出をしたあなたが マルセイユの街を 泣きそうになりながら 歩いていたとき わたしが その すぐ後を 歩いていたのを 知っていましたか? 高野文子『黄色い本』 〈黄色い本〉──『チボー家の人々』全五巻を読了するにあたって実地子は、高校生活最後の日々をともに過ごした...
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