よく見ると、円形の植え込みの、宇野原さんの位置から四十五度左、ぎりぎり遠巻きにしてる他人に見えるところにベラさんも立っていた。二人はマスクをしていない。ベラさんはスマホを見下ろしているし、宇野原さんは遠くて見えないけどたぶん寄り目をしてるから、二人とも私たちには気づいていないようだった。我々は、二人のもとに向かわず、駅出口の脇に固まって話し合う。
どうしよう近づきたくない。林原さんが眉根を寄せて言うが、言葉が笑いで揺れている。
ウノちゃんってああいうとこ変に律儀だよね、とルールーが、自分が指示したことも忘れたようにため息をついてみせる。
どうするのリョウくん、あれ。恋人は、みんなといるときだけ私を筆名で呼ぶ。あれじゃああんまり哀れだよ。
人は腕時計やスマホがあっても時計があると目をやってしまうもので、駅から出る人々は、みんなだいたい時計台をちらりと見上げ、その数メートル下にいる男を見てぎょっと目を逸らし、植え込みから距離をおいて歩く。
リョウくん、きみがいちばんあの人と付き合い長いんだから。
そういうルールーが責任とってよ。
責任っていうなら保護者はベラっちだから。
そのベラさんが他人のふりだもんな。
私たちが責任を押しつけ合っていると林原さんが、職質されてくんないかな、とぼそっと言って、恋人が吹きだした。
いや、ほら、さすがに警察きたらあんな馬鹿げたことやってられないでしょ?
馬鹿げたことってユイちゃん、と恋人が、女性陣とミツカくんだけが呼ぶあだ名で笑う。
そうやってくだらないことを言いあううちに、東京行きの上りがもうすぐ来る、と構内放送があり、それが聞こえたのか、それとも、林原さんたちの便から降りた人の波が落ち着いたのを寄り目の視界で感じ取ったのか、宇野原さんが敬礼を解いた。左を見、右を見てベラさんを見つけ、びぃちゃんそうやってまた他人のふりして!と私たちの前ではつかわない呼称で甘えるのが聞こえた。ベラさんが顔を上げて何か返す。彼女のほうに二、三歩進んだ宇野原さんが、ふと隅っこで固まってる私たちに気づき、イヤおるやんけ!と叫ぶ。ルールーがサッとバッグを上げて顔を隠した。
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