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2021.12.3

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年6月2日
  • 読了時間: 2分

更新日:2022年6月3日

 テザリングできるようにはしてきたから大丈夫、と思って油断してたんだけど……、よく考えたら道ばたでやるわけにはいかないじゃん!っていま気づいた。うっかりうっかりー、と恋人は軽い口調で言ってみせるが、さすがにそれが演技ということはみんなに伝わった。

 私たちはそれぞれのスマホで検索をはじめる。みやび、それってテキストでできないの? さすがに今からは……。じゃカメラミュートにするとか。ウェビナーならまだしも一対一だとちょっと。私と同様エリカもリンも会社員経験がなく、あまり有効な提案ができない。

 PCとネットの準備ができてるなら、もうほんと、十分以内に座ってしゃべれる場所があればいいってことだよね。

 ウノおまえ椅子になれや。

 ほならミツがテーブルな。

 バカ言ってないで! ベラさんに一喝されて二人がしゅんとする。

 それぞれに指を動かして、周辺の飲食店を調べる。でもこんな住宅街にネカフェなんてないよね……。ルノワールとか? 喫茶店も個人経営のばっか。あ、じゃあ個室あるお店は? んーとね。検索結果の客席数を各自読み上げ、内装写真を見せ合う。あたりはすっかり夜なのに、画面のなかの外観はだいたい明るい昼間だ。スプーンとフォークのマークはいくつかあるが、カウンターとテーブル二つだけ、みたいな小体な飲み屋ばかりだ。ここが神楽坂やったらおれの店あるのに、とミツカくんがぼやく。トウモロコシの素揚げ、スカイブルーのカクテル、店主の故郷の名産だというお通しのかりんとう。私が知らなかっただけで、このへんには美味そうな店がいっぱいある。こんなときなのに、みんなで遠足の下調べをしているような、よくわからない高揚を感じている。

 だめだあ、そういう店ないよ。エリカが最初に音を上げた。


明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

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