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2021.4.12

 送ると同時に、スマホの画面の上端に、メールが届いたことを示すバナーが現れた。座談会最終確認です、との件名で、PDFが添付されていた。二月末に行った座談会を、三月に原稿の手直しをして、その後ゲラのチェックを経て、ようやく来月売りの文芸誌に載る。読みかえすのはもう四、五度目くらいで、さすがにそろそろ飽きが来ていた。とはいえ、この段階になれば、各自の発言内容も整理されて、文末の処理とか間投詞なんかも据わりがよくなっていて、だから手直しするところはない。編集者からのコメントも、君島さんが最後のゲラで発言の一部を削除した影響で、その発言に応答した私の言葉(そうですね、でも、というくらいのちょっとしたフレーズ)も削除されることになり、その確認だけだった。PDFに手を入れて添附するまでもないので、変更箇所、問題ないです、とメールに書く。それだけだとなんだか素っ気ない感じがしたので、こう書き添えた。チンカスくそじじい、いなくなったんですね。

 久保野くんの言い放った〈チンカスくそじじい〉は〈いわゆる大御所〉という表現に改められていて、その老大家の名前も消されており、穏当にはなったがしかし〈いわゆる〉にちょっとした悪意を感じてしまうのは、〈チンカスくそじじい〉に幾重にもオブラートをかけたものだと知っているからだろうか。


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