2021.5.15

 彼女が最後にシロタくんと会ったのは美大の卒業式に、同じ日に別の大学の卒業式に出ているはずのシロタくんが花束(もちろん薔薇の、九本の)を持って現れた日までさかのぼる。

 同じ苗字になるのがいやってわけじゃない、結婚したらどっちの姓にしようね、みたいな話をすることもあるらしいし、そのときに、シロタって姓も飽きてきたなあ、みたいなことを言いもするし、だからリンと結婚はしたい、するなら自分たちは同姓をえらぶ、でもいまの、別姓を選択できない制度に乗ることは、その制度のありかたを肯定することになる、って。

 私の暮らす列島の北端に、北の大国との領土問題になっているいくつかの島々がある。私が学部生時代を過ごした土地は、列島のなかでもその島々にちかく、夏祭りなんかにも早期解決を求める署名のブースができてたり、東京で暮らす今よりも、その問題はアクチュアルなものだった。元島民でもその家族でもない私がそれらの島に渡るには、まず領土問題を抱える相手国に渡航して、そこで入境許可証を取得するのがいちばん現実的だ。私の国の政府は、そういう行為の自粛を国民に要請しているのだが、法的な強制力があるわけではなく、地理的には近いのだからビジネスや何かで渡航する必要がある人はその手段を取るしかないし、そうやっている人はけっこうたくさんいるらしい。というのは領土問題についてのWikipediaの記事の受け売りなのだが、結婚制度もそれと同じで、現行の制度のありようには反対だけど、それでもこの人とむすばれたい、という感情で制度を利用する人はきっと少なくなく、五年前、恋人にプロポーズした私もその一人だった。