2021.1.13

私たちは外食どころか、喫茶店にいっしょに入ることも減り、おたがい下戸で飲み屋に行くのは誰かのつきあいだけで、いずれにせよ──これも中止したオリンピックの置き土産で──喫煙のできる飲食店はほぼ姿を消した。もしかしたら私は、もう何年も、恋人が煙草を吸う姿を見ていない。彼女の身体にまといついた残り香だけだ。ピアニシモの細い紙巻きを、ひとさし指と中指の先端に挟み、煙を舌の上で転がす姿を、私は思い出す。引っ越してきてすぐのころは、たまにいっしょにベランダに出て、一本が灰になる間、冬の大学の色や家々の静かな室外機を見ながら話したりしていたが、その習慣もすっかり途絶えた。