延々呻吟しているばかりでは何も書けるはずはなく、私は苦し紛れに、思い出話を書きはじめた。むかしTwitterで、あれは誰だったか、エッセイやコラムを書くときの秘訣、について投稿していた。自分のこと──私生活や記憶について──がテーマでなく、社会批評や書評のたぐいを書くときでも、まずは自分に身近なことから書きはじめる。自分のことはそれなりに知ってるし思い入れもあり、だからわりあい筆は走り、そうやって文章が勢いよく流れはじめたところで本題に入る。そして最後まで書ききる。そうすると、最初に余計なことを書いてるぶん、指定された枚数を超過しているはずだから、私語りの部分を削除して整える。私がその投稿を読んだのは、小説家として依頼を受けるようになって困っているころで、すぐに自分の仕事に取り入れた。その人は、読みかえしてみて、私的なところもうまく書けてるようなら残す、とも書いていて、そんな実感のこもったことをSNSにポストしていたのだから、きっと小説家だったのだろう、とつらつら考えていて思いだしたのだが、あれはたしか平野啓一郎だった。
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