2021.1.26

 とにかく私は、今回も、平野の助言に忠実に、私語りからはじめることにした。いまの日常、本のこと、地元への思い、それなら私の人生のどこを切り取ってもだいたいテーマに合致してるはず、と自分に言い聞かせながら、小学生のころ所属していたサッカー部のことからはじめた。サッカー部の、私のひとつ上の先輩にダーヴィッツというあだ名の選手がいて、私たちはだいたい彼をヴィッツさんとかヴィッつぁんと呼んでいた。あだ名の由来はもちろんエドガー・ダーヴィッツで、ダーヴィッツは(ごく短期間ミランに所属していたこともあるが)ユヴェントスのレジェンドだからあまり彼のことを考えたくはない、ので手短に。闘犬とあだ名される激しい守備が持ち味のダーヴィッツは、二十代後半、選手としての全盛期に、片目に緑内障を発症してしまう。失明の可能性もあったが、手術を受けて克服し、復帰後は目を保護するため、色の入ったゴーグルをつけてプレーした。そのゴーグルはダーヴィッツのトレードマークになった。彼は二〇一四年まで現役としてプレーしつづけたが、私は海外サッカーが好きなわりにほとんど試合を観ることがなく、得点にあまり絡まない守備的ミッドフィルダーの彼がどんなふうに動いたかも知らず、だからダーヴィッツといえば、束ねたドレッドヘアとゴーグルという、サッカー選手としてはあまり重要ではない、ルックスのことをまず思い出す。

 ヴィッつぁんもゴーグルをしていた。近視だったから。コンタクトレンズをつかわない理由は知らないが、目にものを入れるのを嫌う人もいるし、小学生の親になっていてもおかしくない年齢になったいま思うと、一度買えば視力が変わるまでつかえる眼鏡より、一定の頻度で買い換えなければならないコンタクトレンズは金がかかる。とにかくヴィッつぁんは度入りのゴーグルをしていて、ポジションもダーヴィッツと同じ中盤の底だったこともあり、そのあだ名がついた。