なんて?
ちょっと待って、英語だから。恋人は真剣な面もちでスマホを見ながら、早口で読み上げるように呟く。聞きとれるほどの声ではない、と思うが、私が英語を理解できていれば、ちゃんと言葉として聞きとれているかもしれない。あー、と残念そうに言う声で、だいたいの内容はわかった。えっとね、リスケとかテキストでやるとか、いろいろ提案してみたんだけど、やっぱりだめみたい。今日は予定が詰まってるし夕方に、っていうのはドイツ時間だから日本時間だと、何だ、深夜?に、製作会社とミーティングやるんだって。だからそれまでに、大きな市場である日本のライツとの交渉を済ませて、数字を報告しなければならない、みたいな。
なるほどね。よくわからないがとにかく、状況は好転していないということだ。
ミーティングはする。散歩もする。これはなかなかタフなミッションだね。恋人が、なぜか楽しんでるような声を出す。
ヤスミンがもう起きたのなら、予定を早めて今からやればいいのでは、と私は思いつく。でも、それはヤスミンに時間外労働をさせるということで、こちらから提案するわけにはいかないのだろう。私の仕事は労働時間という概念がそもそも希薄だし、ブラック上等、みたいな風潮すらある。アルバイトをやめて専業になって、まっとうな社会感覚がどんどん麻痺しているのを感じる。
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