そうやってみんなで、話題を禁煙から逸らしていく。
エリカとリンの下り列車の放送が流れた。周囲の人々の動きが、すこしだけ早まった。先に恋人が戻ってきて、ミツカくんあと一本だけってさ、と言う。
歩いとったら吸えへんもんな。
このあたりは、誰でもつかえる喫煙所はここにしかない。あとは飲食店の前の、客だけがつかえる灰皿か、私たちの部屋のベランダくらいだ。恋人はよく、ベランダの手すりに灰皿を置き忘れる。休憩のときに吸いに出て、作業に戻り、また休憩を取ろうとしてようやく気づく。百均のさ、何の思い入れもない灰皿だし、と彼女は言っていたが、同棲の引っ越し荷物にも入れて、ところどころ焦げたスカイブルーを大事に使い続けている。きっと私には話さない記憶が、煙草の匂いとともに染みついているのだろう。
宇野原さんやミツカくんが来たことはないが、ベラさんは何度か遊びに来ていて、一度だけ泊まっていきもした。みんなでお笑いのDVDを観てる途中、二人はときどき、LDKに私を置いて彼女の部屋のベランダに出て、一本ずつが燃え尽きるまでを過ごす。その間私は笑いの絶えた部屋で一人、各自のコップにお茶を注いだり、サッカーニュースをチェックしたりする。
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