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2021.11.7

 二人が広場の端っこ、目立たない場所なのに人が大勢集まってるせいでどうしても目につく一角に向かっていく。壁で囲われてはいるが透明だし、何人も外にはみ出して吸っている。会社員らしいスーツの男たちと、学生っぽい若者。女性は少ない。恋人とミツカくんが、間を縫って壁のなかに入っていく。その背中を見送りながら林原さんが、禁煙してるんだ、とどちらにともなく呟いた。いつから?

 うん、とベラさんが言う。言葉に迷うように唇を曖昧に動かす。私は今でも、マスクをしてない人と会うと唇を見てしまう。目は口ほどにものを言う、と諺にあるが、唇も、そこから言葉を発さなくとも饒舌に感情を伝えてくる。

 せやかてもう高すぎんねん、と宇野原さんが言う。質問からはズレた答えだ。ゆうてもあれ煙やで煙、気体になんちゅう税かけんねんって。

 健康にはいいでしょ、とルールーが言う。

 せやね、寝覚めスッキリ。宇野原さんの言葉に続けて、あとご飯おいしいよ、とベラさんが補足するように言った。

 またみんなのスマホが震える。〈あとひと駅ですー、待たせてごめんね!〉というリンのメッセージに、ほんの数秒でミツカくんが、〈タバコ吸ってるんで大丈夫〉と返した。喫煙所を見やると、人ばっかりがいるまんなかで、恋人がライターに火を灯すところだ。一本では済まなかったのか。林原さんがすばやく指を動かして返事を打ち込む。〈宇野原さんががんばってるからゆっくりでいいよ〉〈なんか文の途中でねじれとりませんか〉ふふ、とルールーが笑った。


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