動物園ならね。すぐにサッカーニュースを見はじめた私と違い、ちゃんと調べてたらしい恋人が言う。多摩動物公園とか、あとは吉祥寺まで行けばなんかあるみたい。サルはいるかわかんないけど。
歩いてどのくらい?とルールーが、自分のスマホを見下ろしたまま訊く。
歩いて……、どっちも二時間はかかるかな。恋人は答える。まだみんなに話してはいないが、彼女はこのあとミーティングをしなければならない。どれだけ手短にやっても三十分くらいはかかるだろう。何時までなんだろ、閉まっちゃうかもね。
あとはもう多摩湖とか、と私は言った。多摩湖もたぶん二時間くらい。
多摩湖か、そうだね。恋人がスマホをリュックにしまいながら頷く。トトロの森とかあるし──。トトロいたもん!と宇野原さんが叫ぶがみんな無視する。あと野生のサルもいそう。
きみらそない野生がええのん。ミツカくんがつっこむ。でも二時間か。
彼が何を懸念しているかはなんとなくわかった。我々は無目的にそぞろ歩く散歩隊であって、グールルマップを見下ろしながら目的地を目指すのは隊の流儀に反するのだ。
しばらく逡巡したあげくミツカくんは、まあサルはええわ、とあっさり言った。あとふた駅ならまだ時間あるやんな、おれちょっと、これ。そう言いながら、二本合わせた指をマスクの口元にもっていき、ちらりと宇野原さんを見る。
宇野原さんが何か言う前に、いま禁煙中なんだわたしたち、とベラさんが答えた。
えー、ほんま! そういやゆうべも二人吸ってへんかったな。久保野くんとルールーと、宇野原さんちで飲む前に、ミツカくんの店にいたのだろう。あまり交流はないが、久保野くんもたしか吸わなかったはずだ。ほならミヤちは?
水を向けられた恋人は、すこし迷って、ちらりと私のほうを見てから聞き返す。一本くれる?
ちゃっかりしとんのう、ええよ。
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