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2021.3.15

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2021年9月12日
  • 読了時間: 1分

更新日:2022年3月4日

 十数枚が刷り上がるのを待つ間、冬のベランダで彼女が感じていた寒さのことを考える。細い金属の手すりに乗せた手の冷たさ、掌でつつんだカップの痛いような熱さ。息は白く、煙も白い。街はやっと起きたところだ。彼女がさっき買い物袋を提げて歩いた道を、デリバリーのバッグを背負った自転車が走り抜けた。さすがにサービス開始には早い時間だから、これから、飲食店が集まっている二駅先のターミナルあたりで待機するのだろう。学生の多い街だ。きっとまだ家を出たばかりで、ベランダにいる自分と、取り巻く空気の冷たさは同じはずなのに、たいへんだな、と彼女は思う。口のなかでコーヒーと煙をまぜあわせて飲みこむ。煙草の先端が音を立てて灰になった。


明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

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