2021.3.15

 十数枚が刷り上がるのを待つ間、冬のベランダで彼女が感じていた寒さのことを考える。細い金属の手すりに乗せた手の冷たさ、掌でつつんだカップの痛いような熱さ。息は白く、煙も白い。街はやっと起きたところだ。彼女がさっき買い物袋を提げて歩いた道を、デリバリーのバッグを背負った自転車が走り抜けた。さすがにサービス開始には早い時間だから、これから、飲食店が集まっている二駅先のターミナルあたりで待機するのだろう。学生の多い街だ。きっとまだ家を出たばかりで、ベランダにいる自分と、取り巻く空気の冷たさは同じはずなのに、たいへんだな、と彼女は思う。口のなかでコーヒーと煙をまぜあわせて飲みこむ。煙草の先端が音を立てて灰になった。