2021.3.30

 パソコンのスリープを解除すると、座談会のゲラが届いていた。この間作業したのは文字起こしを構成の鎌部さんが整えた原稿で、もちろんすべて私たちが自分の口から発した言葉ではあるのだが、発言をまとめるときに、それぞれの意図とずれた観点で要約されたり言い換えられたりすることもある。だからこそゲラにする前にテキストデータを参加者に送って手直しをさせるのだ。裏紙にプリントアウトして読みはじめる。ざっと読んだところ、文意が変わっていたり、その場では話さなかったことを追加してきている人はいない。私たちは五人とも、鎌部さんがあまりその場の雰囲気を崩さないように構成しているのを察したのか、方言やため口や同じ言葉のくり返しなんかも残していた。チンカスくそじじいも。

 いくつか、ほかの人の発言に合わせて単語を入れたり、意味のない相槌を消したりして送りかえす。そのメールに私は、チンカスくそじじいが残るかどうか注視しています、と書いた。

 ほどなくして、私たちは注視どころか戦々恐々としています、あれを残したら雑誌として御大に喧嘩うることになるし、かといって勝手に削るわけにもいかないし、。久保野さんが最後はご自分のイメージを気にするかただと信じてます……。と困惑のよく伝わる返事がきた。ばかうけしてたお二人も無罪じゃないですからね。それを言うなら編集者もみんな、というかあの場面で表情を変えなかったのは林原さんと君島さんだけで、編集者やカメラマンや鎌部さんも笑っていた。

 その編集者とのやりとりはそれで終わった。ゲラと文字起こしの原稿を画面の右と左で並べて開き、文章を読み比べる。宇野原さんが自分の発言に方言を増やしたり言い淀みの間投詞を追加しているのは、鎌部さんが構成した原稿だと、まるで宇野原さんがちゃんとした人みたいになっていたのが居心地悪いのだろう。林原さんと君島さんは、もともとの発言がちゃんと整理されていたからかあまり内容の修正はないが、林原さんはいくつかの漢字を平仮名にひらいていて、君島さんは何かを説明する言葉をいつも、……なんですよね、と結んでいたのをすべて、……です、に変えていた。久保野くんはたぶんひとつも修正がなく、ゲラで指摘されるまで固有名詞の明らかな誤字すら残っていたのは、もちろん気づかなかっただけという可能性もあるが、もしかしたら、読みもせずに原稿を戻したのかもしれない。