スピッツ。なつかしいな。恋人は、恋人の母の運転で実家に向かう緊張を散らそうとするように言う。昔よく聴いてた。
スピッツといえばさ。畑はもう収穫を終えて、土が静かに冷えている。秋の終わりにしても強すぎる暖房で、飛行機を降りてやっと通りの良くなった鼻が、また詰まりはじめている。家々はほとんどがこぢんまりした二階建てだった。空港から私の実家のある集落へ向かう途上に、私の中学の陸上部の先輩の実家があって、彼が卒業して以来私たちは一度も会っていないし、それまでだってたいして仲が良かったわけでもなかったのに、母は、私の交友範囲が中学のころのまま固定されてしまったように、空港から先輩の家のあたりを走るたび、あんたの友達このへんじゃなかったかいな、と言いながらハンドルを左に切る。そうだっけね、と私はななめうしろに遠ざかっていくくすんだ青の屋根を見、忘れちゃったわ、と言うのがつねで、それがわずらわしくて、先輩の家が近づくといつもどうでもいいことを口にした。草野マサムネのインタビューを読んだことがあって──。
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