2021.6.17

彼女はそっぽを向いて外を見下ろし、山しかないなこのへんは、とつまらなさそうに言う。季節は秋で、ふちのほうから赤と黄のグラデーションが這い登り、中心で雪の白に沈む山肌は、それなりにきれいではあったのだが、一万メートルとかの高さからでは、うっすらぼやけてよく見えない。空気はやや湿っているようで、ときおりちいさな雲の塊が私たちの下に見え、その雲が山に投げかける影の暗さが過ぎたあともずっと残る。午後になったばかりで、周りの客席では弁当や何かをつついている人も多かったが、私の鼻は詰まっていてにおいがよくわからない。

 私はなんであのときシ・セ・プエデの話なんかしてたのだったか。私はサッカーの話になると饒舌になりすぎる習性があり、あのときもそうだったのだろうが、実家に恋人を連れていく飛行機のなかで、話すことはほかにいくらでもあっただろうに。その後シ・セ・プエデが私と恋人の間で口にされることは一度もなく、私たちは空港に降り立って、母の運転する車でバイパスを走る。カーラジオはNHKの、たぶん地方支局が作っている、でも東京で聴くのとだいたい同じような番組をやっていて、スピッツが新曲か何かを歌っていた。