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2021.7.2

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2021年12月30日
  • 読了時間: 1分

更新日:2022年3月13日

 ないのか。

 でも……、ぼくの地元は何かというと砂丘だから。べつに砂丘は砂丘でいいんだけど、自然ってそれ以外にもあるんだし、滝だってあっていい。道は山に入っていて、坂を上がりながら、息も絶え絶えに私は言った。その滝に行くことを提案したのは私だった。恋人はこの土地の出身ではなく、私と交際しなければここに来ることはなかっただろう。誰かと縁づくことはその人の来歴とも親しくなることだ。一生来なかったかもしれない土地を、彼女は、もうこれで三度も訪れていて、今後も私との交際をつづけ、結婚なんかしたりすれば、もっと何度も来ることになる。私にとっては、はじめて走るこの坂道も、小さいころから名前は知ってた滝への道だと思うと近しく感じられるが、恋人にとっては遠い土地の知らない坂道でしかなく、彼女とこの土地をむすびつけているのは、ひとえに私の存在しかない。

 ちょっとうれしいな。

 うれしい? なんで? そう訊くと、彼女はすこし考え込む。二人がペダルを踏み込む音と、すこし荒れた呼吸。道に張り出した低木の枝が、私たちの身体が立てる音にあおられて、音を立てて二度揺れる。

 この土地で、わたしたち二人ともにとってはじめてのことって、これが最初じゃない?


明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

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