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2021.8.31

〈ご調整いただき、ありがとうございます。それでは十七時半に、駅南口の時計台前でお待ちしております〉。それだけ送ってLINEを閉じ、サイレントモードに設定した。

 もう子供たちの声は聞こえない。スマホをベッドに投げると、朝抜けだしたときのままわだかまっているタオルケットの上を弾んで床に落ちた。私たちの部屋は防音がしっかりしているし、昼間だから外の音もそれなりにあるが、さすがに今のは恋人に聞こえた。物に当たっていると思われたかもしれない。でも、あとで顔を合わせたときに彼女がそのことを指摘してくるはずもないだろうし、私から持ち出すのも不自然だ。人と暮らすのはこうして些細なささくれを、日々のご飯といっしょに飲みこんで生きていくことだ。私は椅子に座ってパソコンを立ち上げた。


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