私はキッチンに出た。コーヒーのポットが減らないまま冷えていた。バルミューダのケトルがすこし温かいのは、恋人が紅茶でも淹れたのだろうか。音楽は止まっていた。
みやびさん。ノックをせず、届くか届かないかくらいの声で呼びかける。イヤホンをしていたり、よほど深く集中していれば気づかない声だ。返事があることとないことと、自分がどちらを望んでいるのか、呼びかけてから考えて、答えが出る前に、んー、と気の抜けた声が返ってきた。
休憩にしませんか。
んー?
息抜きしたほうがいいよ。
んー。
もう二時間くらい集中してるし。
んー。
んーしか言わなくなっちゃった。さっきの、すこしギスギスした空気が、まだ残っているんだろうか。
うん。
コーヒーあるよ、期間限定のポテチも。
それはわたしが買ったやつだよ。
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