2021.1.28

 ヴィッつぁんはチームの不動のボランチで、左サイドバックだった私はよく彼のロングフィードを追いかけてタッチライン沿いを全力疾走したものだし、私が前がかりになって手薄になった左サイドの守備をカバーしてくれるのもヴィッつぁんだった。でも私たちはべつに仲良いわけではなく、私はヴィッつぁんがどこに住んでいるか知らなかったし、彼も私の家に来たことはない。部活のあと、校門の前で手を振って左右に分かれるグループの、彼は左、私は右に属していたから、きっと住んでいる場所は、同じ校区内とはいえ遠かったと思う。遠征や合宿で、みんな一緒に風呂に入り、五人部屋で遅くまで話し込んで監督に叱られたりもしていたが、ヴィッつぁんと二人で話したことはほとんどない。私たちは友人ではなくサッカー部のチームメイトで、パスが通りさえすれば絆をむすぶ必要なんてない。サッカー漫画の、あとでけっきょく誰よりも仲間思いになる転校生が、初登場時につよがって言うようなことを私は真に受けていて、だからヴィッさんとも、あえて仲良くなりたいとは思わなかったし、ふだんまったく喋らないのに試合中は阿吽の呼吸でボールをつなぐほうがかっこ良い、とすら思っていた。ヴィッつぁんも同じように考えているはず、と私は思っていたが、実際のところどうだったのか。単に彼は私に、よく走るサイドバックという以上の興味を持っていなかったのかもしれないし、彼が卒業したのを機に、私たちが顔を合わせることはなく、だから私はかれこれ二十五年ほど、ヴィッつぁんに会っていない。私と同様、三十代の、もう自分でも若いとは思えない年齢になっているはずの彼は、いまどこで何をしているのだろう。共通の知り合いは多く、その気になればいくらでも消息を知ることはできるのだが、四半世紀経った今も、やっぱり彼の人となりに、あまり興味はない。