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2021.1.8

 せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、と唱えてきて、この暗記法はたぶん五七五七七のリズムになっていることで憶えやすいのだがしかし、すずしろ、のあとは何だっただろう?と立ち止まるのを、毎年の七草の朝にやっている気がする。すずしろまでですでに七草は出揃っていて、最後の七音は語呂合わせにすぎず、だからべつに思い出さなくとも良い。記憶はままならないもので、同僚の名前が思い出せないこともあれば、小学生のとき授業で宛てられて堂々と誤答した、というような、すっかり忘れていたし一生そのままでいいようなことが不意に蘇ってきて叫びだしたくなったりもする。私の最後の七音も、いつかの一月八日の朝に、寝覚めの頭が拾い上げてきてくれるのかもしれないが、それはどうやら、今ではない。

 そういえば毎年スーパーで同じものを買っている気がする七草セットのパックを冷蔵庫から出し、スマホをまな板の脇に置いて、写真フォルダのなかから、スクショしておいたレシピ開く。大根とかぶは葉もいっしょにみじん切り、それ以外の葉っぱはまとめて──もちろん私は、七草のどれがどの野菜なのかわからない──粗いみじん切り。それぞれ長さ五センチに満たないちいささとはいえ、根野菜のみじん切りというのは思いのほかタフな作業で、骨が折れる。オリーブオイルで大根類と生米を炒め、コンソメを入れて、軽く焦げ色がついたらお湯を注ぎ、いいかんじの歯ごたえになる直前まで、水がなくなったらまた注ぎながら混ぜつづける。最後に葉っぱと粉チーズを気持ち多めに入れて火を通す。胡椒もちょっと入れる。

 いいにおい。

 声がしたので振り返ると恋人がいた。もこもこの靴下ともこもこのショートパンツ、キャミソールにもこもこのニット、ぜんぶ無地のベージュで、羊かなにかのコスプレをしているみたいだ。十一月に突然、それまでは肩くらいあった髪をばっさりベリーショートにして、寒い寒い、うなじに風あたる、季節まちがえた、と毎朝のように言っていたのが、二ヶ月ですこし伸び、冷たい首元にも慣れたのかその口癖は引っこんだぶん、寝癖がひどくなった。手櫛でもやや固い毛はととのわない。たぶんちょっと前に起きて、スマホでも見ていたのだろう。厚い眼鏡の奥の目ははっきりしていて、頰にケーブルの跡がついていた。


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