2021.1.9


 七草リゾット。

 ゆうべ言ってたやつ? 彼女は私の手許を覗きこむ。わ、フライパンでやってる。生米?

 リゾット用の米じゃないけど、できるもんだね。

 緑があざやかだねえ。

 もうあとは盛り付けだけ。顔洗ってらっしゃい。

 はーい。あとトイレも行きます。

 なぜかそう宣言して、彼女は廊下につづくドアを開け、イヤさむっ、と低い声で言いながら閉じた。私は丼にリゾットをよそい、ローテーブルに運んだ。冷蔵庫から、私の牛乳と恋人の豆乳をとりだし、そろいのコップに注いだ。水を流し、何の魔法をつかったのか寝癖をかんぜんに撫でつけて戻ってきた恋人と、彼女は左、私は右に並んで座り、手を合わせる。ソファは窓に向いている。本棚の間の窓の下にテレビがあって、暗い画面の手前で、ふたつの丼から立ちのぼる湯気が朝の光に揺れている。サッカー中継と地震速報、土曜深夜の『世界さまぁ〜リゾート』のときにしか私たちはテレビを観なかったし、『さまぁ〜リゾート』は終わってしまったから、その画面は、数ヶ月に一度しか光らない。私がひとりぐらしをしていたころ、ゲームをするために奮発して買った大型の液晶テレビだったが、PS4あたりで最新ハードを買うのをやめ、もっぱらスマホゲームばかりするようになり、それも時間を食うばかりで五つとも削除してしまって、一生の趣味だと思っていたコンピュータゲームを、私は完全に手放してしまった。そのかわりに創作に没頭して、いればよいのだが、単にゲームをしていた時間を別のことに割り振りあぐね、延々とスマホでニュースを巡回したりして、私は、その芸を一度も観たことのないイケメン芸人が高校生時代デートDVをやっていた、というようなことを知って義憤を感じたりしている。

 これはチージーでいいね。

 ね。チーズ、大さじ六杯。

 めっちゃチーズじゃん、七草リゾットじゃなくてチーズリゾットだよこれは。

 いや七草リゾットでいいんだよ。

 まあ六より七の方が多いか。

 よくわからないところで納得して、恋人はリゾットにスプーンを突っこむ。私がどんな料理を作っても彼女は、おいしいよ、と言って食べてくれるのだが、ほんとうに舌に合ったときはすごいスピードで完食する。七草リゾットも、私が半分くらい食べたころにはすでに彼女の丼は空になっていて、私はすこし食べるペースを速めつつ、丼の底にこびりついたチーズや米までこそげ取ろうとするのを横目に見てうれしくなる。

 気に入った?

 また食べたいやつです。

 また作るよ。

 でも一年後かー。

 まあバレンタインじゃなくてもチョコ食べるんだし。

 七草、明日も売ってるかな。

 たしかに、七草セットがスーパーに並ぶのはこの季節だけだ。大根とかぶはいつでも買えるが、ほかの五種類はわからない。せりくらいなら探せば見つかるだろうか。

 七草じゃなくても、こういう和の食材をリゾットにするのはいいね、またやってみる。

 鯛とか?

 なんで鯛。

 いやなんか、正月だし。あれ今日ってまだ正月?

 正月じゃないかな。鏡開きまで。

 おかゆ食べたら終わりだと思ってた。

 魚はいいね、鯛じゃなくても、白身魚、いまなら鱈とか。鱈もチーズと合いそうだけど、それじゃふつうかな。

 あとは中華風リゾットとか。花椒とか八角入れてさ。

 そういうことを話しながら、私がリゾットを食べ終わるのを待っていてくれる。いっしょにキッチンまで食器を運ぶ。それからバルミューダの電気ケトルに水を入れ、私はコーヒーの準備をはじめた。彼女も飲みたいらしく、今日四度目のコーヒーだが何も言ってこない。豆が足りなさそうだったので、百グラムくらいを数度に分けて挽く。すごい音だ。