top of page

2021.10.17

マグに残ったコーヒーを一気に飲んで部屋を出る。

 恋人はまだだった。マグを持ってシンクに立つ。水を溜めた深皿に、二膳の箸が入っている。たいした量じゃないから帰ってからでも、と思いついたときにはもうスポンジに水を含ませている。もったいないからすこしだけ、と思ったのだが、力加減が難しくて、洗剤をいっぱいに出してしまった。百パーセント天然由来で、野菜や果物を洗うのにも使えるという。食器以外を洗ったことはない。恋人は肌が弱くて、独り暮らしをはじめてから、こういう、天然由来の洗剤しか使わないという。私は逆に、ケミカルなオレンジや緑色の、ドイツとかアメリカのでかいボトルのばかり使っていた。そのほうがよく落ちそうだしなんかカッコ良い、くらいの理由だったし、いっしょに暮らすにあたって、彼女に合わせて天然素材のに統一した。もうあの、ドイツかアメリカの、泡立ててもまだうっすら緑がかった洗剤を買うことはない。

 赤の他人がいっしょに住むとはそういうことだ。


bottom of page