2021.10.19
- 涼 水原
- 2022年4月18日
- 読了時間: 1分
更新日:2022年4月20日
私がかつて住んでいた北の街では、冬が近づくと、白く小さな虫が大量に宙を飛ぶ。雪虫、というその呼び名が、雪の季節の先ぶれであることによるのか、細かな雪が舞っているように見えるからかは知らないが、例年ならちょうど今、十月の中頃に、今年も雪虫が目撃されました、と、地方紙やローカルテレビのお天気コーナーで報じられ、人々は長い冬ごもりの準備をはじめる。東京の空を雪虫が舞うことはないが、私は、今となっては人生の二割程度の年月とはいえ、それなりに長く過ごしたその土地のニュースに感度が鋭くなっている。滅多に雪の降らない街に越してもう十年ほどが経つ。恋人はたぶん見たことのない雪虫は、気づきもしないそのニュースは、私にとって、東京の遅い秋の前ぶれだ。カーディガンを羽織っただけの恋人に、それじゃ夜寒いかもよ、と言って、自分も部屋に戻り、ユニクロの薄いダウンを出す。LDKに出ると、ちょうど彼女もダッフルを持って出てきたところだった。
行こっか。
うん。
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