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2021.10.21

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年4月20日
  • 読了時間: 1分

更新日:2022年4月21日

 シューズボックスを開ける。クイックルとかゴミ袋のストックとかといっしょに、ルコックの靴を買ったときの箱がある。私たちのマスク入れだ。一枚取って、ドアは閉めずに、一人が立つのがやっとの土間の靴に足を突っこむ。立ち上がって振り返り、冷えた金属のドアに背中を押しつける。尻に財布が食い込む。後ろ手に鍵とチェーンを外して、恋人がスニーカーを投げ落とすように置き、爪先を差し込むのを見ながら、ドアにもたれかかるようにして開けた。冷たい空気が吹き込んできた。わ、秋だ。俯いたまま恋人が言った。

 忘れものは?

 だいじょうぶ。恋人は両手をうしろに回し、リュックを持ち上げるようにして、よいしょ、と立った。

 じゃ行きましょう。ドアを閉める。よい散歩を。

 うん、よい散歩を。言いあってキスをした。ピアニシモのメンソールのむこうに、ほんのり砂糖の匂いがある。ラムネだ。三十分の集中のために食べていたのだろう、と思っていたら恋人が、ん、コーヒーの匂いがしますね、と笑った。飲みすぎだよ。

 三階からだとエレベーターを待つより階段を行ったほうが早い。外階段をカンカン降りながらマスクをつけて、鼻に押しつけてワイヤーを曲げる。


明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

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