2021.10.21

 シューズボックスを開ける。クイックルとかゴミ袋のストックとかといっしょに、ルコックの靴を買ったときの箱がある。私たちのマスク入れだ。一枚取って、ドアは閉めずに、一人が立つのがやっとの土間の靴に足を突っこむ。立ち上がって振り返り、冷えた金属のドアに背中を押しつける。尻に財布が食い込む。後ろ手に鍵とチェーンを外して、恋人がスニーカーを投げ落とすように置き、爪先を差し込むのを見ながら、ドアにもたれかかるようにして開けた。冷たい空気が吹き込んできた。わ、秋だ。俯いたまま恋人が言った。

 忘れものは?

 だいじょうぶ。恋人は両手をうしろに回し、リュックを持ち上げるようにして、よいしょ、と立った。

 じゃ行きましょう。ドアを閉める。よい散歩を。

 うん、よい散歩を。言いあってキスをした。ピアニシモのメンソールのむこうに、ほんのり砂糖の匂いがある。ラムネだ。三十分の集中のために食べていたのだろう、と思っていたら恋人が、ん、コーヒーの匂いがしますね、と笑った。飲みすぎだよ。

 三階からだとエレベーターを待つより階段を行ったほうが早い。外階段をカンカン降りながらマスクをつけて、鼻に押しつけてワイヤーを曲げる。