2021.10.24

 今日はじめて外に出た。私はマスクの下で呟いた。今日がはじまって十七時間目にして。

 そうだっけね。

 みやびさんは、朝なにしに出たんだっけ。

 煙草。ファミマまでね。

 じゃ今日二度目のファミマ。

 七時間ぶり二度目のファミマ。朝の店員さんまだいるかも。

 小さい子たちで賑わっていた路地も、この時間は人影もなく、建物の間で薄暗い。どこか、私たちの知らない近所で工事をしているらしく、ハンマーとか機械の音が遠く聞こえる。指示を出す荒っぽい声も。小学校の同級生に工務店のせがれがいて、こないだFacebookで、父親の後を継いで社長になった、と投稿していた。バイトを合わせて二十八人というのはその業種においてどのくらいの規模に位置づけられるのか、SNSでたまに見る、という程度の関係性とはいえ、ベンチャーを除いて、同級生が株式会社の経営者になったのははじめてだ。社長も現場に出るものなのかも知らないが、その投稿を見て以来数日、工事の声を聞くと彼のことを思い出す。最後に会ったのは成人式のときで、もともと親しかったわけでもないからたいして話しもしなかったのだが、私の単著が出たときにFacebookの友達申請が来て、それから数年、なにか難関の国家資格を取った、同級生の新居の外壁塗装をやった、三人目の子供ができた、とかの輝かしい近況だけを知っている。チビ三匹を合わせて三十一人、一個小隊を率いることとあいなりました、と笑顔のパンチパーマだ。私が小説家としてどれだけ成功しても、三十一人の生活を背負うことはきっとない。その重みを想像すると気が遠くなる。