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2021.10.26

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年4月25日
  • 読了時間: 2分

更新日:2022年4月26日

 まだ集合時間には余裕がある。私は先に外に出て、彼女が会計を終えたら見えるよう、ガラス張りの前に立つ。スマホが盛んに震えている。〈散歩隊〉がまた賑わっていた。林原さんが〈ノルマ終わり! 急ぎ向かいます!〉と投稿して、ルールーが〈わたしもう出てた、いまお茶の水〉と返したのをきっかけに、各自出発の報告をする流れになり、みんなのなかではいちばん近い高円寺に住んでいる、〈りょ〉以降はずっと無言だったミツカくんが、〈おれも出たで〉とかではなく、〈おれマリアと、おたがいの誕生日にやりとりしとるで〉と送ってきていて、それでみんな沸いていた。〈え、なにそれ〉〈マリアもそんなの言ってなかったよ〉〈すみにおけんのう〉審議!審議!と騒ぐ私の知らないキャラのスタンプを最後に、みんなはミツカくんの発言を待つが、けっきょく返事はないまま数分経って、ルールーが、〈なんかミツカくんらしいエピソード〉と嘆息して終わった。

 Facebookは友達登録した人の誕生日に通知がくるようになっていて、私も年に一度、今日はMaria Corrales Moraさんの誕生日です、というポップアップを見ていたが、ほかの百何人の通知と同じように、ふーん、と思うだけで消していた。鬼怒川に行ったのは、私が今の恋人と交際をはじめて一年も経っていなかったころだ。知りあうきっかけになった宇野原さんだけでなく、ベラさんやミツカくんにも紹介してはいたが、恋人は彼らと親しくなりはじめたばかりで、一泊とはいえ温泉旅行をするほど打ち解けてはいなかった。それが今では、出勤で都心に出た帰りに神楽坂に寄ったり、林原さんとミュージカルを観に行ったりしている。私はもともと恋人の友人だったエリカやリンと、彼女を介さずに会うほど親しくなれてはいない。


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