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2021.10.29

 北口から駅に入ろうとしたところで、まもなく一番線に五時二十六分大月行き快速がまいります、と放送が聞こえる。恋人がまた振り向いて、誰か乗ってるかな、と言った。

 私たちの街は、北口側はすぐ住宅地になっていて、駅前よりむしろ、大学の門の周辺のほうが栄えている。繁華街は南側だ。乗り入れているのは一路線だけで、それも快速しか止まらないが、駅舎はけっこう大きい──と思うときに比べるのは、人口でいえば東京の一割にも満たない郷里の、市街地から離れた実家の最寄り駅で、駅員が常駐してるだけであれより大きい。高架式の駅だ。私たちの頭の上に列車が入ってきて、それほど音は大きくないが、駅の空気が震えている。〈いた!〉と林原さんから、メッセージと画像が立て続けに送られてきた。スマホを見下ろした恋人が、ルールーだ、と言う。目を細めて笑う林原さんと、黒い革のちいさなバッグで顔を隠すルールーが、列車のなかで身を寄せ合っている写真で、二人の後ろには、YouTubeチャンネル登録者数五百万人!というインフルエンサーの書いた小説の広告が写りこんでいる。私はYouTubeはやっていないが、デビュー前からずっとTwitterをやっていて、フォロワーは四百何十人といったところで、この著者の、一厘の十分の一を何と呼ぶのか今ちょっと思い出せないが、とにかくそれにも満たないのか。


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