2021.10.30

 不毛なことを考えるのをやめて案内表示を見上げる。集合時間までに下りの列車は、ちょうど今着いたのと三分後の二便しかない。二人はどっちかに乗ってるはずだ。エレベーターを挟んで二股に分かれた階段を、人がたくさん降りてくる。五時過ぎではあったが、都心からの退勤ラッシュにはまだ早い。過疎化の激しい地方都市で育ち、生まれてこのかた通学も通勤もずっと徒歩か自転車で、いまやベッドから二歩の椅子に座って働く私は、座席がぜんぶ埋まってるだけでもう満員の気持ちになるが、その話をするたびに、私の胸より背が低く、通勤のたびにぎゅう詰めの車内で足が宙に浮いていたという林原さんに嫌味を言われる。パンデミックでリモートワークが広がったはずなのに、鉄道会社が便数を絞ったからか、通勤ラッシュの過酷さだけは変わっていないという。実家の最寄り駅の、一日の乗降者数より多そうな人が疲れた足どりで階段を降りてくるのを見ながら、いやあ人ばっかだ、と独りごとを言うと、パンデミック前までは九時五時で出勤していた恋人が、こんなのは少ないほうです、と嫌味を言った。

 あれルールーじゃない? 恋人が声を上げる。

 え、わからん。どこ?

 右側の階段の上のほう。恋人が指さすと、その先でサッと何かが動いて、黒いもので顔を隠した。その隣で小柄な笑顔が手を挙げる。林原さんだ。私たちも手を振る。視界を塞いだせいでルールーの歩みが急に遅くなって、うしろを歩くスーツの若者がちょっと迷惑そうにしていた。