ミツカくんもわたし、江ノ島以来だから。
ああ、そういうこと。まあおれも飲食やから。気にする人ももうそないおらんけどね、いちゃもんつける隙狙っとるやつもおんねやんか、虎視眈々。せやからいちおうお客もな、マスクしてきた人は入口ちかくの換気ええところで、しとらんやつは奥の席に案内しとんねん、ちゅうほど広い店やないけど、まあ気分。
ミツカくんがひと息にそう言い、気圧されたようにエリカが、へえ、ちゃんとしとるね、と返す。エリカもたしか西日本の出で、宇野原さんやミツカくんと話すと訛りが出る。
これでも経営者ですからねぼくは。ミツカくんは胸を張ってみせる。ワクチンも打っとりますよ、今も。接種が自費負担になったときにはすでに、私は専業作家になっていて、恋人も完全在宅勤務だったから、ほとんど人と顔を合わせないし、保険も利かない四千円は、私にとってはけっこう大きい。私たちは九人とも、パンデミックがはじまってからもう七年ほど経つが、一度も感染していない。公費のうちはちゃんと接種して、行政のよくわからんお触れにもいちおう従ってきたからなのか、単に運が良かったのか。しかし、私たち九人が無事だったことは知っているが、シロタくんとか、林原さんのパートナーとか、実在も定かじゃないルールーの男がどうかは知らない。感染すると味覚や嗅覚が冒されるというし、シロタくんみたいに食べるのが仕事の人はたいへんなのではないか、とまで考えたが、シロタくんはオフィス用品のリース会社の営業で、ジャイアント白田ではないのだった。
そういえばリン、シロタくんはどうしてる? 私にとっては自然な流れだったが、きっと唐突に聞こえるだろう、と思いながら尋ねると、リンがあっけらかんとした感じで答える。
辞めたよ、さわがに商事。
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