top of page

2021.11.16

 辞めたあ? いちばんうしろで林原さんと話していた恋人が素っ頓狂な声を出す。林原さんも驚いた表情なのは、シロタくんのことでびっくりしたのか、恋人の大声に虚を突かれたのか。そんなことこないだ言ってなかったじゃん。

 転職活動してるって言わなかったっけ。

 言ってた、それは言ってたけど続報は初耳。

 なんとなく二・五・二の三グループにわかれて、縦になって歩いていたのが、シロタくんの話をみんな聞きたがって、九人が大きな団子になる。全員揃って歩くのに、九人というのはいかにも多く、この人数がひとつの話題に集まることは難しい。ミツカくんの店のテーブルならまだしも路上では、あまり横に大きい集団で歩くのは躊躇われるし、聖徳太子じゃない我々には、八人と同時に会話することはできない。頻繁に集まっていたころはまだ慣れや何かでみんなと話せていたのだが、編集者や、せいぜい四、五人の集まりしか持たないうちにその感覚を失って久しく、ひとりの発言に耳を傾ける、のを八人ぶんやる感じだ。集まってまだ三十分ほどで、私はもう気疲れしている。

 ソフトウェア開発に主軸を移すことでパンデミックを生きのびたさわがに商事だが、そのぶんリース部門が縮小されることになった。シロタくんはもともと情報工学専攻で、希望すればシステムの保守部隊に行くこともできたらしいが、根が体育会系で、外回りがほとんどない、あるとしたら遠隔操作ではリカバリできない面倒なトラブルのときくらい、というのが性に合わなさそうで転職を決めたという。


bottom of page