2021.11.18

 リンとエリカは、制作のほかに仕事はしていないはずだ。実家が太くなきゃやってらんねえっすよ、と繁森くんは言っていたが、二人はどうなのだろう。私がしばらく原稿の掲載や出版がなく、一ヶ月の振込が七万円、みたいなことがあっても動じないでいられるのは、多少は貯金があるからだけではなく、同棲している恋人が、正社員として安定した収入を得ているからだ。それをあてにする、ひもになる、というつもりはないが、折半してる生活費の少なくとも半分は揺るがない、というのは、心理的にすごく大きい。戸建てでシェアハウスしてるリンとエリカも、そうやっておたがいに、あとそれぞれの家族や恋人を、ちょっとずつたのみにすることで、先ゆきの不安に立ち向かっているのかもしれない。

 見えなくなった駅のほうから、また次の便が入ってくるのがかすかに聞こえる。もう本格的なラッシュがはじまっているはずだ。とにかく混むのがいやで、約束が朝九時とかなら始発に乗って喫茶店で四時間過ごすほうを選ぶ私としては、ラッシュの便に乗ることを選ぶ人が、東京中の車輌がぜんぶパンパンになるくらいたくさんいる、というのが信じられない。と考えて、それは乗る時間を選べる特権階級の人間の言うことですわね、と恋人が、実際には言ったことのないいやみを言うのが聞こえた。槙野智章がリトルマキノと対話しているように、私のなかにもリトルミヤビがいるのだろうか。