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2021.11.19

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年5月19日
  • 読了時間: 1分

更新日:2022年5月29日

 二人のこと、わたしなりに心配してるんだからね。恋人のその言葉でリンの話は終わり、九人は、また二、三人ずつで縦になる。二人のこと、というのは、リンとエリカのことか、それともリンとシロタくんのことなのか。昔読んだ青春恋愛短篇漫画は、若い二人が向かいあい、好きだよ、という台詞で終わるのだが、コマは校舎の屋上から見上げた空がいっぱいに描かれていて、どちらの発言と受け取るかは読者にゆだねられていた。モノクロの青い空に放り出されたようなその感覚を、小説を書きながらときどき思い出す。小説は、装画や挿絵をのぞいてテキストだけで構成されているものだから、取捨選択の巧拙はあるにせよ、情報を落とすのがわりあい簡単にできる。私はあまりそういう書きかたをしないのだが、恋愛ものでデビューしたルールーは、人物の言動の背後にある感情を、描写することなく描くのが上手くて、私は彼女の恋愛小説を読むといつもどきどきする。

 私たちはみんなお互いの作品を読んでいるし、会ったときには、良かったよ、新境地だね、くらいの感想は言いあう。でもそれだけだ。私とルールーは作品について話したがらない。宇野原さんも素面のときは小説の話をしない。


明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

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