べべ、エリー、ミヤち。ミツカくんにはそうやって、自分しか呼ばないあだ名がいくつかある。ルールーを黒薊という姓から取ってクロと呼ぶのもミツカくんだけだ。でもミツカくんは、林原さんのことは他の人と同じようにユイちゃんだし、私のことは単にリョウと呼び捨てるだけだ。くだけたあだ名じゃないと仲良くないみたい、とは思わないが、心安さの指標のようなものだとも感じていて、酒が飲めず、下戸でも恋人やルールーみたいにお茶だけ飲みに店に行くこともない私たちに、ミツカくんは距離をおいているのかもしれない。
林原さんはなんて呼ばれたいの?
それがべつにないんだよね。あだ名もなかったし。リョウくんは? 本名じゃないんだよね、ときどき宇野原さんがカオルって──。うん、と頷いて、私は本名を名乗る。へえ、苗字は知らなかった。いい名前だね。
名前を、それも本名を、お義理にでも褒められることはめったになくて、私はなんだか照れてしまう。どの駅からも離れたこのへんでは、二、三階建ての一軒家がほとんどだ。近代になってから、都心から郊外に鉄道が延ばされ、その駅ごとに田畑が埋められ、宅地が開発された。いま私たちが歩いている場所は、そうやって作られた新しい街の外縁と外縁の間にあって、さすがに戦後ではないと思うが、まだ百年も経っていない。
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