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2021.11.27

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年5月27日
  • 読了時間: 2分

更新日:2022年5月28日

 わたしは本名だからさ。登場人物の名前は百人とかつけてきたけど、自分が一生名乗る名前を考えるっていう経験を、今さらだけどやってみたいな。

 いまデビューしなおすならペンネーム何にする?

 笑われるから言わない。ふふ、とマスクの端からえくぼを覗かせる。

 恋人はもちろん私の本名を知っている。もともと彼女の友人だったリンとエリカも。中華料理屋で宇野原さんに紹介されたときも、緊張と、偽名だけ言うのは不躾な気がして、本名を添えて名乗った。ベラさんとミツカくんは鬼怒川のとき、マリアといっしょにFacebookを交換したから知っている。ルールーはどうだろう。商業デビュー作の担当者が林原さんと同じで、BL以外の書き手の友達がいない、というルールーを心配した編集者がミツカくんの店に連れてきたのが初対面だった。それからもうすぐ十年経つが、私たちはお互いの本名を知らない。

 ミツカくんたちが先頭を歩いていたときのまま、私と林原さんは何も考えずに、なんとなく南を指して進んでいる。古い寺の前を通り過ぎる。左側には電機メーカーの工場の塀がずっと続いていて、明かりはもう消されているが、高いところで赤い光が明滅している。ごう、と排気音が絶えず聞こえる。金属のにおいだ。その塀が切れるより早く、右側に、また別の寺が現れる。住宅地として開発される前はきっと、さっきの寺とは違う集落だったのだろう。でかい工場がここにあるのも、集落の間で人が住んでおらず、わりあい土地が安かったのかもしれない。こっちの寺のほうが大きいから、集落どうしの力関係もなんとなく想像がつく。


明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

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