2021.11.28

 今の東京に古地図を重ねて、位置情報も表示できるアプリを、ちょっと高かったからダウンロードはしなかったが、SNSで話題になっていたときに、東京だけでなく、学部生時代を過ごした北の街や私と恋人それぞれの地元の古地図を区立図書館で借りた。この街に越してきたときも、新居の窓から見える大学の図書館で、貴重資料に指定されている、江戸に家康が来るより前の地図を閲覧した。百年や二百年経っても、寺社仏閣や土地の区割りはそうそう変わらない。明治以降にまるごと開発された北の街だと、寺はいくつか、神社は郊外にでかいのがひとつかふたつあるだけだ。私たちの故郷や東京では、まちなかに寺や神社が散らばっているし、お稲荷さんは住所ごとにある気がする。お地蔵さんはそういえば、東京ではぜんぜん見ないな。地元では、集落に出入りする曲がり角には必ず、手製の前かけを下げたお地蔵さんがあったものだけど、と考えて、すみずみまで開発されきった今の東京に、集落なんて概念ないのか、と思いつく。

 そういう話をしようにも、大学までずっと横浜で、浦和で働いた五年を経て川崎の古いニュータウンに住んでる林原さんはピンとこないらしく、かわりに、ミツカくんとの会話が一段落ついて静かになっていたエリカが反応した。

 なにリョウくん、地理マニアなん? 訛りが残ったまま、私と林原さんの間に入ってき、林原さんはそれに合わせてスッとうしろに下がる。

 いや、べつにマニアってか、ちょっと気になって調べてさ。そう言いながらも私の耳は退いた林原さんを追っている。あーそういやユイちゃん、言うたっけこないだヒロセさん来たの。ほんと、一人で? いやなんか、また新人作家連れてきたで。文壇バーめいてきたねえ。いやミヤちゃん堪忍してや! 最後尾で宇野原さんが悲鳴を上げ、恋人とベラさんがくすくす笑う。その前でルールーとリンが、BLのことを話す時の低い声で囁きあっている。みんなの会話が同時に聞こえ、すべてをすこしずつ聞き落として、声音だけが記憶に残る。次第に、九人で歩くときの耳の開きかたを思い出してきた。わたしのとこもさ、あちこちにお稲荷さんあって。エリカが言い、ずっと遠くの街灯を見る目つきになる。あと、そうだな、あれがあった。水神さん。