2021.11.29

 西日本の古い城下町、という点でも、いまの人口規模も、私とエリカの郷里はよく似ている。エリカと知りあうずっと前、高校生活最後の三月に、私は当時の友人たちとその街に行った。今なら岡山か姫路から新幹線に乗り換えるのだが、当時は金もなかったし、尾道や下関なんかに降りながら、ずっと特急を乗り継いで行った。進学先の地名を冠した居酒屋、私の郷里にあったのとよく似た、門だけ残った武家屋敷、宿で読んだ佐原ミズ。今も残っているのはそういう、人に話すには個人的な記憶ばかりだ。私はあまり写真を撮らなかったし、当時は日記を書いていなかったから、あの土地を思い出すよすがは記憶のなかにしかない。いま地元紙でカメラマンとして働いている友人は、たしかその旅行にも父親の一眼レフを借りてきていた。私は旅行のあとすぐに進学先の街に引っ越したから、彼が撮った写真を見たのは二年後、成人式のために帰省したときで、そのころには、写真のなかの自分が、なぜうれしそうににやけながら電信柱に抱きついてるのかわからない。それでも、単なる電柱にそんなに愛着をしめすのはただごとじゃない、と、旅の帰路に寄り道して歩いた海底トンネルの話で盛り上がる旧友たちのかたわら、ずっとその写真を見下ろしていると、それに気づいたカメラマンが、そうだカオル、それの参考写真もあるで、と言った。

 参考写真?

 そう参考写真、フィルムちょい余っとったけえな、帰ってから撮りに行っただが。彼は煙草をくわえて私から写真の束を奪い、煙たそうに目を細めてばさばさめくり一枚選ぶ。縦長の画面の中央に、電柱が突っ立っていた。