2021.11.4

 さっきの便よりは降りる人が多く、改札からいっせいに出てきたなかに、見知った顔は見つからない。学生らしい男が駅の出口のまんなかで立ち止まって、スマホに顔を向けてマスクをずらす。ロックを解除しているのだろう。それから時計台を見上げ、しかし明らかに宇野原さんを狙ってるとわかる角度でスマホを構える。私たちは、彼の行動に気づいてはいるが、声に出して指摘したり、まして注意したりすると、これからはじまる九人の時間の幸先が悪い気がして、みんな気づかないふりをしている。きっと律儀に寄り目をしている宇野原さんも、自分が撮られていると知らない。若者はスマホを見下ろして、なにか文章を打ち込むように指を動かしながら、飲み屋の通りに向かっていった。写真を誰かに送って笑うのか、SNSに上げでもするのだろうか。みんなの意識が彼を追うのが分かる。ふ、とルールーが、何か皮肉めいたことを言うときの感じで息をついたところでいきなり、いやウノおまえそれ職質もんやで!と叫ぶ声がした。

 あ、ミツ!とベラさんが声を上げた。

 ありゃベラちゃん、みんなもおるやん、なんでそんな遠巻きなん、と言って宇野原さんを見、マスクをへこませてから、呆れたようにあーと笑う。おまえのせいやな。

 おれも被害者やって。顎を挟むようにして頰をさすりながら宇野原さんが返す。ミツ来てあとは誰や、えっと、と、ポーズを解いたのを見て近寄ってきた私たちを見回す。

 リンちゃんエリちゃん、でも遅れるって。ベラさんが言い、それよりさあ、とミツカくんに向きなおる。マリアと、どういうこと?