2021.12.10

 こっそり画面を覗きこむ。ヤスミンの背景は自宅らしい、茶色いドアと壁掛け時計、あと木製の本棚が見える。元気? 元気だよ、みやびは? 私も元気。恋人は宇宙空間の画像を背景に設定していた。ねえ、レオはどうしてる? 太ったよ、ほら! ヤスミンが白猫を抱き上げる。画面の半分くらいが腹だ。キュート、と恋人が笑った。こういう挨拶くらいなら私の英語力でもなんとなくわかる。でも、すこし話がこみいるともうだめだ。私が打ち合わせや対談のとき、恋人と話すような話しかたをしないのと同様に、恋人もヤスミンと英語でやりとりするときは、普段とちがう頭で話す。たとえ防音のされていない隣にいても、How did you...ととかIt was so...とか、易しい単語しか聞きとれない私には、そこで交わされているものが見えない。恋人が、どこか自分から遠のいてしまったような気持ちになる。二人の声のトーンで、疑問文かそうでないか、笑ってるとか冗談を言ってるとか、訝しげな口調だとわかるだけだ。

 恋人が何か言って顔に手を当て、ちらりと私を見た。ヤスミンが短く笑い、恋人も困ったような声音を返す。二人の言葉に意識を向けると、どうも、ライトとかフェイスがどうとかこうとか言っている。宇宙空間に浮かぶ恋人の顔はたしかに、左側の一方向からだけ光を浴びている。ベラさんとエリカが同時に吹きだした。なになに、と言うルールーに、エリカが答える。みやび、顔にだけ光が当たって月みたい、いまは半月くらいかな、って。

 みやび、オフィスにいるの? 家? 声が聞こえたのだろう、ヤスミンが怪訝そうに尋ねる。

 んー、と思わせぶりな間をおいて、毎日顔を合わせている私だから分かる、ニヤニヤしそうなのを必死に抑えてるときの表情で答える。A cemetery.

 ハーン?とヤスミンが固まった。