2021.12.12

 恋人とヤスミンは仕事の話に戻っている。林原さんが、自分のスマホのライトをつけて私の隣に立った。アイコンタクトで会話して、照明係を代わってもらう。自分のライトを消して場所を空けた。光源の動きに気づいた恋人が、私たちのほうに目をやる。すこし喉が渇いたから、カメラに映りこまず、光を遮りもしないよう、みんなの後ろをすり抜けて、腰掛石から恋人のクリスタルガイザーを取った。こんな展開になるなら伊右衛門を買ってもらえばよかった。恋人が、ヤスミンの話に頷きながらチョコをひとつぶ口に放りこむ。それから、水を飲み終わった私に向かって手を伸ばし、指をちょいちょい動かした。閉めたばかりのキャップを開けてペットボトルを渡す。ヤスミンがふと声音をやわらげて何か尋ねた。恋人が私にボトルを返しながら答えるうち、クリスタルガイザー、という語だけが聞きとれる。腰掛石に水を置いて、また区画の外に出た。

 いまね、それなーに、って。私が隣に来たからか、エリカが通訳してくれる。今日けっこう歩いたからお水と、これが──恋人はメルティキスの箱を掲げてみせる──日本の冬の風物詩であるグリーンティチョコ。

 そういえば友達のショコラティエが、チョコをほんとうに味わうにはお茶やコーヒーじゃなくて水を飲むんだ、って言ってた。

 それ日本のタレントも言ってたよ。味が変わっちゃうからって。わたしがそうしてるのは偶然だけど……。

 エリカの通訳を聞きながらミツカくんが、おれは逆のこと教えられたな、と呟く。

 逆?

 こっちはバーやから。修業した店のマスターがな、酒を味わうにはしょっぱいつまみはあかんねんて。せやからお通しにポテチとか塩味ついたナッツ出すとこは味に自信ないねんて。そう言われてみれば、ミツカくんの店のお通しはいつも無塩の野菜チップスだ。

 恋人が仕事をしてるのを見るのは、いまの家でそれぞれの個室を持って以来はじめてだった。あいかわらず、言ってることはいくつかの単語と固有名詞しかわからない。それでも、映画の上映権という、何万人が夢中になる作品にかかわるやりとりがなされているのを見ていると、わけもなく高揚してくる。壁一枚へだてて隣に、ずっとこんな世界があったのだ、とあらためてうれしくなる。どんな状況にも人は慣れるもので、タブレットを操作しながら話す恋人は、すっかり普段と変わらない。私なら、夜の墓場で仕事を──執筆をしろ、と言われたら、怖くてちっとも捗らなさそうだ。

 そう大きな寺ではないとはいえ、暗いせいでたぶん実際より広く感じる。二人の英語は、地面なのか草木なのか、まさか墓石ではないだろうが、どこかに吸収されて、さして大きく響かない。これなら誰にもばれずにミーティングを終わらせられるんじゃないか。そう思って油断していて、私たちはみんな、何者かが近づいてきてるのに気づかなかった。墓地のしっとりした土は、足音だって吸い込むのだ。

 ──何やってるの。私たちのすぐうしろで、野太い男の声がした。