top of page

2021.12.13

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年6月12日
  • 読了時間: 2分

更新日:2022年6月20日

 私たちはみんなぴたりと身を縮める。懐中電灯の光が地を這って、私たちの身体を照らす。誰も返事はしないまま、ヤスミンだけが喋り続けていた。振り向くとスキンヘッドの男が立っている。暗闇のなかで眼鏡が光る。and then...とヤスミンが、何の相槌も打たない恋人に気づいて尻すぼみに黙る。何やってるの、と男はもう一度言った。何かの配信? 順にみんなの顔を睨めまわし、なぜか私のところで停まる。

 あー、いや、その……。髪がないからではないだろうが眼力がすごく、目を逸らせない。配信ではないんですけど──。光に驚いた目がまた慣れて、男が、色はわからないが暗めのジャージ姿で、袖にいくつもチャンピオンのロゴが並んでるのがわかった。この寒いなか足元はサンダルだ。たしか力士は取組の日、というか場所中以外も、ずっと着流しで髪を結ってないといけない、とどこかで聞いたことがある。僧侶にそんな普段着のドレスコードがあるとは思わないけどそういえばさっき私は、袈裟を着てないときの坊さんは作務衣とか洋装だ、みたいなことを考えたのだが、そうかチャンピオンのジャージか、ここまでラフだとは思わなかった、私はまだまだ思考が狭い──などと延々考えて、どうも自分が動揺していると気づく。といっても黙りこんでたのはせいぜい一秒程度のことだ。私はこっそり深呼吸して、まさか自分が一生のうちに言うことがあるとは思ってなかった、普段ならギャグとしか思わない台詞を口にする。──怪しい者じゃありません。

 それから事情を話した。さすがにお坊さんは冷静で、ときどき相槌を打つ程度で、驚いた様子も見せない。こちらが落ち着いたのがわかって、恋人も、小声でヤスミンに状況を説明していた。早口の弁明と相槌が日英二言語で冬の夜の墓場に響く。いったい私たちは何をやってるのか。



明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

Comments


© 2020 by Ryo Mizuhara. Proudly created with WIX.COM
bottom of page