──ということでして……。私が歯切れ悪く説明を終えると、お坊さんは、そういうことかあ、と破顔した。笑顔は思ってたより若く、もしかしたら同世代だろうか。懐中電灯を持ったまま腕を組み、素早く動いた光が、水場のふたつ隣の山村家之墓を照らし出す。私たちの視線がそっちに引っ張られたのに気づいてか、こちらを見たまま指先の動きだけでスイッチを消した。いやぼくはもう、墓泥棒か何かかと思ったよ。
多いんですか?
多かったら大変ですよ。私の言葉を冗談のように笑う。でも、そうだな、YouTuberはたまに来ますね。墓参り配信とか言って。
うるさかったですよね。九人で押しかけて。
ああ、いや。声はべつに聞こえなかったよ。でもあれがあるから。かちり、とまたライトをつけて、本堂の庇の下を照らす。くろぐろとした影が見える。あれね、暗視カメラにもなるし動かせるんですよ。夜に参られる人はたまにいるし、まあ悪さする感じじゃなかったから放っといたんだけど、寒いし。でもPC出して集まって、さすがに何やってんのか気になって。
恋人が立ち上がり、区画の外に出てくる。PCの画面ではヤスミンが、どこか一点を見下ろして無表情で、こちらが収まるまでスマホでも見ているのだろう。すみません、と恋人が言う。わたしがどうしても外せないミーティングで。帰ったりオフィスに行く時間もないところで、ちょうどこちらのWi-Fiにアクセスできたので、勝手にお借りしてました。
あ、いやそんな、だいじょうぶだいじょうぶ。お坊さんは片手を広げ、もう片方の懐中電灯といっしょに恋人に向ける。使うのはべつに。悪用せんならいいんです。
お墓でなんて冒涜ちゃうかな、とも思たんですけどー。怒ってないのを察して調子づいたミツカくんが言う。
いやあ、冒涜ゆうこともありません。花火や何やするならさすがに迷惑ですけどZOOMでしょ? 恋人がうなずく。うん、そもそもWi-Fiあんのもね、まあパンデミックのころは法事はだいたいZOOM対応しとったし、こないだも昼、新潟のご親戚が車椅子で移動がたいへんだからってことで、今もリモート葬儀しとります。タブレットご持参でね、だからパス開放して、そのままにしとったか。
でもほんと、すみません、通りがかりにただ乗りして。
困ったときはお互いさまですから。言ってくれれば本堂で、いや本堂はさすがにアレか、まあ中でやってもらってもよかったんですよ。
すいません、と私たちは、あまり優しくされると恐縮してしまって、何度もぺこぺこ頭を下げる。下げながら私は、今日一番の懸案事項が、どうやら大過なく済みそうだ、と内心安堵の息を吐く。
でもさっき英語?話してましたよね。外国とつないで法事したこともあるけど──。言いながらお坊さんが、スッと水場の区画に入り、PCの前に屈みこむ。まずい、となんとなく思ったが、そう思ったときにはもう遅く、ヤスミンが驚いて目を見開き、アー、とうろたえた声を出す。どうしたものか誰も判断できずにいると、お坊さんの口から、不意に流暢な英語が飛び出した。
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