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2021.12.15

ヤスミンと恋人と三人で賑やかに歓談しはじめて、私の名前が呼ばれた、と思ったら、どうも彼の名がリョウシュンらしく、それがわかっても会話の内容はほとんど、簡単な言い回しといくつかの固有名詞を除いて聞きとれない。俳優や監督、有名な作品のタイトル、映画の話をしてるらしい。エリカもPCの前に戻る。恋人が少し身体を引いて、三人がカメラに映りこむ。見たところ四十歳前後の人が英語を喋れても何にも不思議ではない、のだが、ジャージ姿とはいえ、僧侶というのは英語から最も遠い職業のような気がしていて、どうにも変な感じがする。リョウシュンさんがカメラに手を振って出てきた。

 いまギレンホールの話してました? 私が尋ねると、彼ははにかむように笑う。

 いやあ、好きなのよね、あの目。

 わかります!といきなり林原さんが大きな声を出した。虐待された子犬みたいですよね!

 あー、うん、そうね。歯切れ悪く頷いて、まあなんだ、お茶持ってきますね、と本堂のほうへ去っていく。慈悲の心やわ、とミツカくんが言い、リョウシュンさんの背中に向かってリンが手を合わせ、ベラさんも合掌して、なーむぅー、と仏壇の CMの真似をした。

 恋人とヤスミンはまた仕事の口調に戻り、エリカが外に出てくる。すごい映画好きなんだね、リョウシュンさん。毎週一、二本は観るって。ヤスミンも、仕事だからかもだけど映画めっちゃ観るらしくて。だから日本来たらリョウシュンさんもいっしょにお茶しよー、ってことになった。

 いつの間にそんな話になったの。ルールーが目を見開く。エリカ、すごいね。

 まあ話の流れ。ふふん、とちょっと誇らしげに笑う。

 数分後、ジャージの上にコートを羽織ったリョウシュンさんとその妻が、でかいポットで煎茶を持ってきてくれた。やっぱり本堂に上がれば、と申し出てくれたのだが、ヤスミンにしてみれば、ミーティングの相手が遅刻したと思ったら墓地にいて、しかも途中でエリカやお坊さんが乱入してきて、明るい笑顔を浮かべてはいるが、内心いい気持ちはしてないだろうし、さらに移動するからって中断して、またつないでみたら今度は、屋内とはいえたぶん金とか赤の派手な仏具に囲まれていて、となると、いくら人のいいヤスミンでも、もう契約を切りたくなっちゃうんじゃないか。いちおう、メモアプリに二人の申し出を入力して恋人に見せたら、スマホを取って、〈もうすぐおわる〉と返してきた。それで私たちは、住職の目の前で墓のなかを歩き回るのは気が引けたから、その場で足踏みや屈伸をしながら寒さをごまかし、ミーティングが終わるまで待った。住職夫妻と私たち九人、今ここにはヤスミンを除けばちょうど十一人いる、サッカーのチームができる、と思ったが、たぶんミツカくん以外誰も面白がってくれないだろうな。


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