2021.12.17

 恋人がお茶を飲みきった。十二月も後半になると、まだ十九時を過ぎたばかりでも冷え込んで、動いていないと寒さがこたえる。身体あっためていってもいいよ、とリョウシュンさんは言ってくれたが、私たちは異口同音に固辞する。僧侶の妻がその間に、私たちから湯飲みを回収して、ポケットから出したビニール袋にガチャガチャ放りこんだ。分厚く、飲み終えてもまだ重たい丈夫そうな湯飲みではあったが、リョウシュンさんとの会話もそこそこに、彼女の所作に目を惹かれてしまう。

 すごい──豪胆ですね。慎重に言葉を選んだのがわかる間をあけて林原さんが言った。

 ふふ、だってこのほうが楽でしょう。

 そう言っていたずらを見られた子供のように頰をほころばせているのを、私は、そして林原さんや宇野原さんやルールーもたぶん、今日の散歩の記憶にとどめる。半透明のビニールのなかで乱雑に音を立て、一杯につき数滴でも十一人分合わせればそれなりの量になる飲み残しが袋の底に茶色く溜まり、足元灯に淡く透き通る、その印象をいつか小説に書く、と思う。私たち四人の、作風も主題もまったく違う作品に描かれるそのモチーフが、同じ夜に着想されたのだと、どれだけの読者が気づくものか。

 あ、と、荷物をまとめようとして恋人が声を上げる。コートのポケットからマスクを出す。ZOOMに参加するときに外していたエリカも、僧侶夫妻もポケットに手を入れるが、二人は出てきたときからマスクをしていなかった。

 じゃあ、また。リョウシュンさんが手を振る。お気をつけて。風邪引きませんようにね。

 お二人も。

 またいつでも来てね。

 はーい!とエリカが振り返す。菩提寺でもない寺を訪れる機会なんて、好きな小説家の墓があるとか、あとは知人の法事くらいのものじゃないか。だからこのやりとりは社交辞令だ、と思ったが、エリカならほんとうにまた来ることもあるかもしれない。夫妻の友達として、庫裡のインターフォンを押して。