2021.12.18

 柵の間を抜けて車道に出る。なんだかずっと気を張っていて、十日くらい墓地にいた気がしているが、スマホを見れば一時間も経っていない。ふう、と九人はそれぞれにため息をつく。

 みんなありがとう。恋人が改まった声で言う。おかげでなんとかなったよ。

 楽しかったよー、ヤスミンたちとも知り合えたし。エリカが言い、ミツカくんも、めったにできひん体験やった、と笑う。ネタにできるわ。

 冬の夜、それなりの時間突っ立ってたせいで身体が冷え切っている。冷たい石に座っていた恋人はなおさらだろう。雪が降っていないのだけが救いだ。私の隣で、うーさぶ、と宇野原さんが口のなかでつぶやいた。リョウくんおれ、なんや腹減ったわ。ええ店知らん?

 そうですね、とひとまず受けて、恋人と目配せを交わす。行き先を相談したわけではないが、擁然寺まで歩いてきた道なりに、私たちの家から遠い駅のほうに向かっていた。近所を散歩するときも、最寄り駅を通り抜けてこっちまで来ることはあまりない。そのときも、繁華街の周りをうろうろすることが多く、こっちの駅ちかくの盛り場は、六年でせいぜい二、三度だ。

 じゃあ探すしかないね。どこにしよう。リンがスマホを見下ろした。みやび、どっか食べたいものある?

 ハイハイおれはね。

 ウノじゃなくて。ベラさんがばっさり言う。みやびはがんばったからね。

 えー、いいの。まんざらでもなさそうに言い、私のほうをちょっと見た。その視線の意図がわからず、とりあえず頷いてみせる。恋人も頷きかえして言う。じゃあわたし、リゾット食べたい。

 あー、そういうこと。思わず口を突いて出る。

 そういうことって? ルールーが私に尋ねる。

 今日もうリゾット食べたから。

 えっどういうこと。リンが訝しげな声を出す。みやび?

 リョウくんのリゾットおいしいんだよ。

 うわびっくりした!と宇野原さんが悲鳴を上げる。いきなり惚気かいな。

 でもじゃあ、なんで、また?

 半年に一回しか作ってくれない。

 米炒めるの面倒でさ。

 そういえばたまに料理のことエッセイに書いてるね。

 こんど麻婆作ってや。

 みんな口々に好き勝手言い、どうやらイタリアンの店に決まったようだ。あと要望は、と見交わし合うとミツカくんが、煙草吸えるとこがええわ、と言い、恋人も同調する。

 ミヤち煙草持ってへんやん。

 もう一本ちょうだい。

 ええけどな、そう言うてさっき三本やで。

 誤差。

 さよけ。

 恋人はふだんなら散歩中に吸うことはないが、さすがにタフな時間だったのだろう。

 車通りがないのをいいことに、白い息を吐きながら、一車線だけの道を横に広がって歩く。飛び込みで九人が入るにはそれなりに広くないといけないが、かといって、ここまで来てサイゼリヤやプロントじゃつまらない。とはいえ、仮に良さそうなイタリアンがなくても、まあ何かあるだろう、と楽観的に考えることにする。それより、こっちの駅だと、武蔵小杉とかなら一本で行けるが、新宿に出るには二、三度乗り換えが必要で、東西線の、神楽坂駅が最寄りの宇野原さんとベラさんはまだいいが、東の果てに住んでるルールーは大変だ、と考えたが、本人は何も言わない。