お墓?
まってよミツカくん、まじで入んの? お墓だよ。ルールーが尻込みしたように言う。黒魔術師で、〈デス〉なんて魔法も憶えるキャラに由来した筆名のわりに倫理的だ。彼女をルールーと呼ぶとき、私たちも本人もFF Ⅹのルールーを思い浮かべることはない。逆にいまFF Ⅹをプレイしたら、私は友人のルールーのことを考えながら遊ぶ気がする。小説や漫画に自分や知人と同名の人物が出てくることはけっこうあるが、〈ルールー〉は人名としてもファンタジーのキャラとしても珍しい。ゲームのルールーは続篇で、旅の仲間の一人であるワッカと結婚して、子供が生まれもしているのだが、グラフィックで描かれたルールーの赤ん坊を画面のなかに見て、私は何を思うだろう。なんかドキドキしそうだな。
ええやろ別に。開いとんねやし。
開いてるけどさ。ルールーは言いながら、ちらりと恋人のほうを見る。みんなの視線が集まって、恋人は助け船を求めるように私を見た。ぜんぜん関係ないことを考えていた私は虚を突かれて、とっさに、ばれたらいっしょに謝るよ、と言った。そういう問題?とエリカが呆れたように言い、すこし空気がほぐれる。
うん、じゃあ、やる。恋人が言い、数度うなずく。別のとこ行く時間もないよね。
冬の夜の六時半、墓参りに来る人もいないだろうし、それほど遅いわけでもないから、寺の人に見つかっても、すぐ通報されることはないはずだ。みんな死んどるんやし、とミツカくんが、私たちが何をためらってるのかわからないように言い、まあ慈悲の心や、なんまんだぶ、と宇野原さんが返して、エリカが私を見やる。何を待たれているのかわかったから、隣人愛だ、と言ったのだが、どうも誤解だったのか、今度はつっこんでもくれずに目を逸らされた。
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