2021.12.7

 恋人がリュックを前に回して抱きしめる。それから私を手招きした。近寄ると小声で、カオルくん先入って、と言う。なんで。なんでってわかりませんか、夜のお墓ですよ。それはわかる、わかりますけれども。矢継ぎ早に交わすうしろでミツカくんがゲゲゲの鬼太郎の歌を口ずさむ。夜は墓場で運動会、という歌詞を、夜は墓場でミーティング、と歌い、最先端おばけやな!と宇野原さんがつっこんで、林原さんがクスクス笑う。ほらカオルくん、ご同郷でしょう。水木翁は県の西部だから敵国人です。そう言ってる間にも時間は過ぎる。観念して柵の向こうを見ると、区分けされて石碑や卒塔婆が立ち並ぶなか、通路のそちこちの角がうすぼんやりと光っている。人魂!と一瞬思ったが、もちろん単なる足元灯だ。これなら行ける。

 じゃ、行くよ、みんな。振り返って言うと、八人が同時にうなずく。いまの台詞はちょっと、ラスボスに挑む直前のRPGの主人公みたいだな、と思いつき、恐怖がうすれた。

 いちおう手を合わせてから足を踏み入れる。アスファルトから石造りの敷居をまたぐと、すぐにしっとりした土を踏む。なまんだぶ、とミツカくんが囁くのがうしろで聞こえた。悪ぶってみせていたが悪いやつじゃないのだ。躊躇する恋人の背中を押すために、あえてあんな態度を取ったのか、とも思いついたが、そのことを確認するのは今じゃない。年内にでも、久しぶりに神楽坂の店に行こう。そのときには今日のことも笑い話になってるはずだ。

 先陣を切って侵入したことで、私は何かやりとげた気になっているが、恋人にとって本番はこれからだ。リョウくん、どこでやるの?と背中に指が触れた。

 そうねえ。区画の境界は膝くらいのコンクリートブロックで、墓石の前には線香立てがあり、〈夢〉と彫られたつるつるの低い墓碑もある。物理的に座れる場所ならいくらでもあるが、さすがにそこまで傍若無人にはなれない。この時間になるともう線香のにおいは散っている。