しかし世評がいちばん高いのも君島さんで、宇野原さんなんかは、ミツカくんの店で酒に酔っては彼の話をしている。
キミちゃん(宇野原さんはミツカくんの店で酔ったときだけそう呼ぶ)はさあ、私性があんねんな、強度や強度、郷土の強度や。湯布院の湯煙吸うて育って大体大で四年間チャリこいでユニバーシアード出て今は福生の古文教師でバツイチ子持ちの無頼派作家やろ、要素多いねん要素が。どこをどう切り取っても物語があるやん。そらぼくかてね、いろいろあったけどね、高校出てフラフラ土方やって十年経ってデビューした、以上!っちゅうてな、こんなんじゃせいぜい中篇ひとつやわ、強度がない。太刀打ちできひん。
ミツカくんは苦笑いしながらも、高卒でバーテンやっとるおれも強度ないんか、と燃料を投下する。
おまえは小説書かへんやろ。おれが書け書け言うても書けへん。
ホンマに書いてほしゅうて言うてへんやろ。
そらそうや、ミツが本気で書いたらおれなんて立つ瀬なしやもん。
せやろ。せやからおれは小説はぜんぶおまえに任せとんねん。
へへへへへ、と二人は笑いあってグラスをぶつける。
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