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2021.3.2

 彼女も同じものを私に感じてくれているのだと私は、玄関に放置されたエコバッグを見下ろしながら思う。彼女が配給の契約をまとめた北欧映画の前売り特典のトートバッグだった。煙草らしい小箱がいくつか、よく仕事中に食べているというラムネの大袋、期間限定のポテチ、牛乳かんがふたつ。バッグを持ってLDKに入り、ポテチはお菓子棚へ、牛乳かんは冷蔵庫へ、あとはバッグにいれたまま、彼女の部屋の前に置く。何も言わなくても私がそうすることを彼女は知っていて、私たちの間ではそういうことがたくさんできていて、だから私たちの間の会話は、べつべつの住所にいたころより減った。


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