私たちは小机に着いた。私にとってはそれが初めての日産スタジアムでの観戦で、当時はまだ開催される予定だった東京オリンピックのサッカー競技の決勝会場、小学六年生の夏にワールドカップの決勝をやっていた、あのへんな髪型のロナウドが二ゴールをたたきこんでブラジルが優勝した、つまりテレビのなかでしか観たことのない存在で、私は、ページの行の間から立ち上がった作中人物──当時はまだあの本を読んでいないし、刊行されてもいなかったが──と相対する前の高揚を感じていた。
でもミツカくんは慣れたもので、よく見れば彼が来ているレプリカユニフォームは二シーズン前のデザインだった。双方のシャツやグッズを身につけた人たちが、みんな同じ方に向かって歩いている。興奮した早口で前節の結果や前回対戦時の仲川輝人のゴールの話なんかを囁き交わす声が聞こえ、道端には非公式のレプリカユニフォームの売人が露店を開き、ちらっと覗いたローソンの店員が着ているのも制服ではなくホームチームのTシャツで、その雰囲気は、私が札幌に住んでいたとき観に行った、コンサドーレ対ガイナーレの試合とよく似ていた。街並みそれ自体はぜんぜん違うのに、私は、横浜──というか小机から日産スタジアムの短い道行きが、あの日の札幌によく似ている、と思ってミツカくんにそういうことを話したが、イヤ似てへんやろ札幌知らんけど、とにべもない。
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